ザッ――
「ッ゛!?」
ザッ――
「ひぃ゛!」
ザッ――
「あぁあ゛!!」
小刻みに変わる首の角度から推測するに、磨理子さんは瞬間的に移動しているようだ。
そう、“まばたき”1つが致命的。
「助けて゛……祐一郎! 敬太くん!」
俺があらかじめ用意していたシナリオは、木っ端微塵に崩壊した。
……鏡だ!
声が出せないなら、
「ッ゛……」
身体が動かないなら。
あとは、鬼である彼の精神力に賭けるしかない。
すると。
「くっ゛!」
……バ、バカ!
孤立無援の焦燥からか、吸血鬼へ十字架を掲げるように腕を突っ立て、おそらく磨理子さんがいるだろう箇所に鏡を示す。
あろうことか、瞼までしかと閉じて。
助かるための方法を、あれだけ噛み砕いて教えたのがすべて無意味になった。
……まただ。
川本くん、由香里、小泉、佑美。
皆が脳裏によみがえり、深い絶望感に囚われる。
……嗚呼……きっと俺はまた、助けられない。
高電圧のジレンマが心を貫き、刹那的に押し寄せる切なさ。
だが……。
………。
……ん?
この感覚、まるで時が止まったようだ。
這いずる音が……。
…………。
……しない!!
「ハ!?」
彼は、テーブルを見あげて目を剥く。
「敬太くん! 女が、い゛る……ででも、動かない!」
……えっ!? まさか……。
ごく稀にある。興奮の絶頂に立って見つける発見が。
「ねえ!! いいんだよね? いいんだよね!?」
……そうなのか!
磨理子さん自体はいかなるときも、鏡を向けられただけで身動きが取れなくなるようだ。
……割れ!! 鏡を割るんだ!!!!
俺の思いが伝わったのか、彼は鏡をモニター台の角にめがけた。


