「見えない! お前には見えるか?!」
祐一郎の声に、一瞬だけ換気口を見た彼は、首を激しく振ってうなずいた。
「よし! 上にいるんだな? 換気口を見ろ! 捕まったら死ぬぞ!」
「ひ゛ぃ゛……」
祐一郎は彼の前髪を鷲掴みにして顔をあげさせた。
「目を開けろっ゛て!!」
強引ではあるが、彼のため。
俺も賛同する。
「信じて! 俺たちを!」
「ッ……」
ゆっくり瞼をあげる彼。
「ぎゃあぁーー!!」
とたんに、恐れおののいた。
「か、お゛……顔! 逆さのぉぉぉぉ女!!」
換気口を指さして、目を血走らせる。
ドスンッ――
ズザザザザザザッッ――
――カッ、カララーーン。
テーブルの隅に置いていた未使用の灰皿が床に落ちた。
おそらく、磨理子さんはテーブルの上にいる。
「っ゛……」
見えざる恐怖は、過去のトラウマに引けを取らない。
「う゛わぁああっ!」
常軌を逸した奇声を発して暴れ、祐一郎の手を振りほどく。
「行くな゛!」
俺は逃げようとする彼の背中に腕を伸ばした。
次の瞬間。
「ぬ゛ぁ!」
……ぅ、動けない。
身体が硬直。助けようとする者に起こる金縛りだ。
「…………」
見るからに、祐一郎も。
「ひいぃ゛ぃい゛ぃ!!」
――ドタッ。
彼はドアノブに手をかけたが、膝が折れて転倒。
とっさに振り返り、後ろ向きで、部屋の隅に後ずさった。
「這、這、這ってくる!!」


