部屋に入ってまず驚いたのは、その広さだった。
3人では到底持て余すパーティールームを、半分も使えずに、皆で固まって座る。
となりの部屋は、椅子の上を飛んだり跳ねたりのMAXヴォルテージ。
かたや俺たちは、注文したドリンクを持ってきた店員のノックだけで肝を冷やすLOWテンション。
どこからか聴こえてくる流行の歌が、お世辞にもうまいとは言えない。
そんなありふれた雰囲気の中にいると、この俺でさえ、なにも起こらない気がしてくる。
時計の針が2時を示す。
「あと1時間か……怖いよ……」
ピンちゃんは買ったばかりの手鏡を強く握りしめ、いざというときの備えにも関わらず、すでに割れてしまいそうだ。
目的が果たされないリモコンに、抗菌済みのカバーがついたままのマイク。
冷たい汗をかく、オレンジジュースと最後の“鬼”。
「せっかくだし、歌でも唄う?」
「「…………」」
俺がいる安心からか、祐一郎だけは余裕綽々。
鬼にとって恐怖でしかない30分間を、彼は待ち望んでいるかのようだった。
……もし。
この方法がまちがえていたら……。
……もしも。
ピンちゃんを死なせてしまったら……。
俺は、時間が迫ることで怖気づいた。
午前3時。
「そろそろだな。ピンちゃん、しっかり気を持てよ! 今夜失敗したらお前は……」
「わ! わかってるよ! 怖がらせないで」
「…………」
祐一郎の警告を遮り、必死に祈るような形相の彼。
酷だが、俺も掛ける言葉があるとすれば、それぐらいしかない。
……集中しよう。
俺は、目を閉じる。
磨理子さんはまず、聴覚を攻めるからだ。


