久しぶりに街を歩く。
手を繋いで微笑み合うカップルに、心が締めつけられるような切なさが襲った。
……沙奈とあんな風に歩きたかった。
そんな物思いに更けていると、
「敬太! 笑え!」
「は?!」
いつのまにか祐一郎がカメラを構えている。
「いいよ! 写真は……」
「早く! はーい、スマ~イル」
きっと、哀しげな俺を、彼は見かねたのだろう。
雲に隠れてかすむ月の下。
そのとき撮られたぎこちない笑顔を、元気になった沙奈に見せて笑い合いたい。
「ってか、どこで待ち合わせ?」
「僕たちの聖地!」
「聖地?」
停車駅の案内図を目で追っていくと、
……そういうことか。
秋葉原。すぐに意味がわかった。
異国の言葉が飛び交う街で、また新たな出会い。
「友達の敬太。彼がピンちゃん。僕ら同い年だよ」
「よろしく!」
俺が先に手を差し出す。
「ぅ、うん。こ、こちらこそ……」
……身体が大きいわりに、気が弱そうだ。
握手を交わしながら、ピンちゃんは誰かを捜しているかのように周囲をうかがっている。
それを見ていた祐一郎は、彼に言った。
「アイツは来ないよ」
「ぇえ!? どうして?」
とたんに、視線を伏せる。
ひどく気まずそうな表情が、いつかの自分と重なった。
「まさか……ちがうよね?」
「……いや、そのまさかだよ」
友達が死んだことを伝えるのは、それだけ重荷なのだ。
「嘘!? あ゛あ―」
希望が潰えたと、うなだれ、頭を抱えるピンちゃん。
早くも俺の出番。


