「矛盾してるじゃないか! 妹は殺されたのに、なんでキミは生きてるの!?」
俺は沙奈を見つめた。
答えがあるとしたら、これしかない。
「それは、愛……かな」
「は?」
自分でも歯の浮くようなクサいセリフだとわかっていたが、案の定ドン引きしている祐一郎。
「沙奈が俺の首に手をかけたとき、彼女は恐ろしい顔をしながらも、泣いてたんだ。あの涙は、肉体と魂が磨理子さんに憑依されていても、俺を殺したくないと懸命に抵抗していた証だと思ってる。愛する彼女になら殺されてもいいと、俺は死を受け入れた……でもね、その彼女って、沙奈のことだけじゃないんだ」
俺は、バッグから磨理子さんの日記を取り出し、差し出した。
「読んでみて」
「……ぅ、うん」
祐一郎は寡黙にページをめくる。
やがて、ノートを閉じたとき。
「わかる? 最初は、俺も磨理子さんのことをおぞましいとしか思ってなかった。でも、この日記を読んで、彼女を哀れみ、愛しいとさえ感じたんだ。もしかしたらその思いが、生かすという赦しを得たのかもしれない」
「……フッ」
彼はほくそ笑みながら、俺に日記を返した。
「愛についての享受を賜りに来たんじゃない。僕の友人が呪いのゲームに巻き込まれてる。残っているのは、彼ひとり。それでも儀式は可能?」
まったく心に響いていない様子に、恥じらいという後悔が込みあがる。
「ど、どうだろう……でも、本当に終わらせる方法を、俺は知ってる」
「え!?」
前のめりに身体を傾け、食い入るような目で俺を見る。
「鏡さ! 前を向いていながら後ろを見れる。ってことは、鏡に映ると、磨理子さんは身動きが取れなくなる」
「た、たしかに……」
「理由はそれだけじゃない。キミも日記を読んだから、わかるはずだ」
「……ッハ!」
なにかを思い出したように俺の手から取り上げ、ページを勢いよくめくる祐一郎。


