ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】




ある日のこと。

「沙奈、今日はすごく天気がいいよ! 外に出られたらいいのにな……今日もね、配達行ってきたんだけど、お客さんが俺の手を見て絶句してた。昔の話なのにね、ヤクザが小指を落とすのって。みーんな固定観念に縛られすぎなんだよ。沙奈もそう思うだろ? ……でさ! 俺、考えたんだ。退院したら、なるだけ人の目に触れない田舎で一緒に暮らそ? 自分たちで野菜作ったり、川で綺麗な水を汲んだりしてさ……。な、そうしよっ?」

沙奈の容態は相変わらず。

今日あったことをひとり、しゃべり続ける毎日。

「あの……」

「ぇ!?」

反応がないことに慣れていた俺は、背後から聞こえた声に驚く。

病室の入口に立っている男は、意外な人物だった。

「だ、誰?」

「僕は……前原祐一郎といいます」

「前原?」

……前原……前原……。

「あ! ことみ?」

「の、兄です」

彼女は命の恩人みたいなもの。

当然、彼を迎え入れる。

訊くと、宇治木からこの場所を教えられたらしい。俺なら力になれると。

歳が同じで親近感が湧いたが、すぐに警戒心が邪魔をする。

信じていた人に裏切られた、“あの”経験からの教訓。

だが、“彼は信用できる”と教えてくれる人がいた。

「彼女は小嶋沙奈、俺たちと同い年」

「てっきり僕は、キミが入院してるのかと思ってた」

「毎日、見舞いにきてるからね……宇治木さんも、ここを教えた方が手っ取り早いと思ったのかも」

すると、沙奈の顔をのぞきこむ祐一郎。

「この子、笑顔が可愛いね」

……え!?

顔を確認すると、沙奈はほのかに笑っている。

「沙奈!?」

肩を揺らしてみるが、口もとをゆるませる以外の反応はない。

それでも俺にとっては、回復の兆しに思えた。

「ここに入院してから、1回も笑ってないんだ……多分、キミを歓迎してるのかも」

初対面の彼に若干の嫉妬をしつつ、俺たちはベッドをはさんで向かい合うように座った。