「必要な物は僕が用意する。準備が整ったら連絡するよ」
病室の外まで見送ろうとしたが、
「ぁそうそう! この前の続き」
彼は俺と、再び対峙する。
「覚えてる? 顧客リストを持ってるかもしれない人物がいるって話したの」
……たしか……。
磨理子さんの夫、敏也の父親だったはず。
「しげのぶ、でしたっけ?」
「うん! これ、やっと手に入れたよ」
宇治木が見せてくれたのは、1枚の古い写真だった。
写っているのは、ふたり。
白いタンクトップに裾の長いズボン、黒い鼻緒の雪駄を履いた大人の男。
目尻に絆創膏が貼られ、太陽がまぶしそうな顔をする、坊主頭の小さい男の子。
「コイツが幼い頃の敏也だ。そして、こっちが父親の重信」
「よく似てますね……」
「あぁ。掘りさげて調べたけど、重信は敏也との面会後、幽霊のように消えてる。もしかしたら、秘密を知ったがために、息子と同じ運命を辿ったのかもな」
「…………」
感傷に浸っている場合ではない。
俺には、やることがたくさんある。
宇治木が病室を出ていくと、いつものように沙奈へ水を与えた。
「ほら、飲んで」
「モノハバツトシテテアシヲウシナイマスオニガシ……」
ほとんどが口からこぼれ、タオルで拭く。その繰り返し。
「沙奈……」
今はまだ正気に戻ることはなく、呪いの言葉を履き続けている。
だが、また笑ってくれるまで、笑顔の花を咲かせるまで、俺はずっと彼女のそばで、水を与え続ける。
確かめ合った想いが枯れないように。
そのためにも必要なことをしなければ……。
翌日。
俺は学校に退学届を提出し、沙奈の看病に専念することにした。


