あざやかな花があたり一面に咲いていて、美しい鳴き声の小鳥たちが舞う。

空は雲ひとつないのに大きな虹が架かり、行くあてのない俺のために、大好きだった祖母が迎えにきてくれる……。

天国という場所を、そんな風に想像していた。

「ッ!」

目を開けると、俺は暗い部屋の中で横たわっていた。

枕の高さも、シーツの硬さも、よく知っている感触。

ここは……沙奈の部屋……?

「ぁ……」

声を出すことや。

……動く……。

指を動かすことだって、できる。

「死んで……なかった?」

思わず息を呑むと、喉に強い痛みを感じた。

脳裏によみがえる鬼の形相。

どうやら、夢を見ていたわけでもないらしい。

「沙奈!?」

身体を起きあがらせ、時計を見る。

……4時52分。

「沙奈!」

その姿はどこにもない。

衝動的な激情を原動力に、財布と配達用のバイクの鍵を握りしめて家を出る。

バイクのシートにまたがると、すぐに寝間着代わりのスウェットはびしょ濡れ。

構うもなにも、俺の頭の中は沙奈の無事を祈ることだけ。

時おり吹きつける強い風にハンドルを取られ、ずっと巡りめぐる過去の光景に囚われる。

なんで気付かなかったのだろう。

佑美が死んだ日、俺は見たはず。

もとの“ダルマさんが転んだ”、そのルールを。