『前原ことみ、覚えてるよね? 彼女が今朝、遺体で発見されたらしい』

……えっ!?

『なんで!? 』

宇治木は携帯を持つ手を変えたのか、返事に少しタイムラグがあった。

『それはまだわからない。これから静岡に行ってみるよ!』

遠い日の、彼女の笑顔が、さらに遠ざかる。

『あの子が……死んだ……』

自然と力が抜け、今にも通話終了のボタンを押そうとしたそのとき。

『伝えておきたいことがもうひとつあるんだ』

漏れてきた声に、再び耳を傾ける。

『前に話してくれたよね? 呪いのゲームを終わらせる鍵は“ダルマ”にされた磨理子さんを“買った”人たちの、顧客リストかもしれないって』

『ぇ、ええ』

『やっぱり気になって調べてみたんだ。そしたら……』

宇治木の口調はやけに予告めいている。

『そしたら!? 』

『いたんだよ! 顧客リストを持っていそうな人物が』

伊達重信。

磨理子さんの夫、敏也の父親だと言う。

『なぜ、その人だと?』

『うん。実はね……』

敏也の父親は、彼が中学2年のときに蒸発していた。

にもかかわらず、拘置所の面会記録に名前が記されているというのだ。

『定職にも就かず、酒におぼれて暴力を振るう、どうしようもない人間だったらしいから、単なる金の無心でやって来たのかもしれない。でも、ちょっと気にならないか?』

『ぁ……』

……やばっ。

ふいに視界に入った沙奈は、頬をふくらませてアピールしてくる。

『な、敬太くんはどう思う?』

『えっと宇治木さん……あの、この話はまた日を改めて』

『急にどうした?』

俺は口もとに手のひらを当て、小声で話す。

『実は……沙奈が……今……ここに』

『え!? ……あー、なるほど』

彼は気を遣い、すぐに電話を切った。