「あんまり見つめないでよ! はずかしいじゃん」

「ごめん。幸せすぎて、つい……」

小嶋沙奈。友達から一歩先に進んだ、彼女の存在だ。

俺たちは、“終わりの儀式”の方法を知り、実行した。教えてくれたのは、静岡に住む前原ことみという女子高生。

仲間が亡くなった今、沙奈が最後の“鬼”で、俺が唯一の“子”。

儀式の結果、小指を失ってしまう形にはなったが、今こうして微笑み合うことができる。

今日は“終わりの儀式”を終えた日から1ヶ月。正確には、33日目の夜。

手の傷はほぼ治った。

そろそろ、心の傷も癒されていい頃だ。

……沙奈、好きだ。

「好きだよ」

ベッドの上で身体を重ね、思いとシンクロするささやき。

「ぅん、私も」

朝には熱帯低気圧に変わる予報の台風が外を荒らしているにもかかわらず、俺たちの間には穏やかな時間が流れていた。


午前1時。

沙奈と見つめ合っていられるのなら、眠ってしまうのがもったいない。


午前2時。
時が許すなら、今すぐ止めてしまいたい。いや、叶うなら、9月9日まで戻せたら……。


そして、午前3時前。

――♪ピリリリリッ~♪

「宇治木さん?」

真夜中に、俺の携帯が鳴った。

……こんな時間に電話?

しかも、相手は刑事。ただならぬことが起きた予感がする。

『もしもし』

『敬太くん!? 大変なことになったよ!』

やはり。

『どうしたんですか?』