2016年2月28日。
俺と沙奈は新宿にいた。
明日は、磨理子さんの命日。
この世を去ってから初めて迎える正真正銘の命日だから、彼女と父親が眠る墓に、沙奈とふたりで花を供えるつもりだ。
同時に、東京の街で過ごす最後の夜にしようと思っていた。
予約していた人気のバーで、飲めるようになったばかりのカクテルを頼む。
「敬太が、こんな素敵なお店を知ってるなんてね」
「俺だって、もう大人だよ!」
「実は、ちがう女の子と来てたりして?」
「バ、バカ言うなって!」
「クスクスッ、冗談よ」
今日という日を計画したときから沙奈は、『最後のオシャレだ!』と気合十分。
艶めくピンク色のルージュも、ラインストーンをあしらった指先も、露出度の高いドレスも。
世界中の誰より魅力的な沙奈を見ていると、一世一代の告白に力がみなぎる。
彼女のグラスが空いたのを見計らって、長身の紳士を呼び止めた。
「マスター、オレンジブロッサムを」
「はい、かしこまりました」
気品のある笑顔を見せるバーテンダー。
「じゃあ、私も同じものを」
「はい」
……よし!
沙奈は高確率で、俺と同じものを注文する。
その習性を利用した。


