約15分後。

高校の正門前に車を停めた。

夕闇に包まれる校舎は、独特の雰囲気を醸しだしている。

「新八さぁーんっ!」

グラウンドに向かって精いっぱい叫ぶが、生徒のひとりもいない。

宇治木はつぶやいた。

「な……なんか、あれだね」

――カァー! カァーッ!

「嫌な予感がするよ」

大きなカラスが屋上の縁で羽を休め、俺たちを見おろしていた。

「校舎を捜してみましょう!」

「うん」

外壁をなぞるように走ると、靴箱のある生徒用の玄関を発見。

そのままの勢いで、校舎内に足を踏み入れようとしたとき。

「こ、これは!?」

「血!?」

廊下に刻まれた長い血のライン。

身の毛もよだつ光景だった。

「どどうします? 宇治木さん」

「ふた手に分かれるか……敬太くんは左、僕は右。これを辿れば、その先に必ずなにかがある」

「わかりました」

俺は言われたとおり、左に足を向けた。

「ちょっと待って!」

すぐさま、宇治木が止める。

「敬太くん、くれぐれも無理はするなよ!」

「はい」

向こうに走りだす宇治木の背中を見送り、再び足を踏みだす。

重い物を引きずった跡のような血のラインは、少し走ったところで折れ曲がり、階段へと続いている。

「ゴクッ」

これは、俺を誘う道標。そう思った。

恐るおそる一歩一歩、踏みしめるように上へ向かう。

踊り場で折り返すたびに肝を冷やし、何度も心が折れそうになる。

道標は最上階の4階で、再び廊下へと続いていた。

「フゥー」

角の壁に背中をつけ、ゆっくりと廊下をのぞきこむ。

「3年4組……」

血は、そこで途切れている。

本能的に上体を低くし、足音を立てないように進み、教室の扉の小窓から、そっと中を……。

「ぁ゛ぁ゛!!」

とてつもないおそろしさに、俺はその場でへたりこむ。

光の速さで押し寄せる絶望。

「うあ゛――――――――――ぁ゛!」

誰もいないと思われた学校に、ひとりだけ生徒がいた。

その名は、前原祐一郎。

今、教壇の上に立っている。



彼の、生首だけが。