「キミの家の飼い犬は、他人にやたら吠えるよね? だけど、現場付近で激しく吠える犬の鳴き声を聞いた人は、ひとりもいない。すなわち、犯人はキミの家を何度も訪ねたことのある人物」

「顔見知りの……犯行?」

「そういうことだ。実はね……」

宇治木は、スーツの内ポケットから写真を取り出す。

「捜査本部は目星をつけているんだ」

「こ、この子?!」

「知ってるか?」

「ええ! 長谷川菜摘……」

「そう。彼女は今、行方がわかっていない。ちょうど妹さんの捜索願が出された頃から」

「じゃぁ……逃げてるってことですか?」

「それはわからない。もしかしたら、彼女も被害者なのかもしれない」

「いや、犯人として完璧ですよ! 妹は、よく菜摘に勉強を教わっていたんです」

女。頭がいい。家に何度も来るほどの顔見知り。

これまで話した犯人像のすべてが当てはまる。

「なるほど。通話記録も調べてみたけど、妹さんが最後に話したのはこの子だった。もしも、それで呼び出されていたとしたら……まず、まちがいないだろうね」

警察が、妹を殺した犯人として、菜摘を逮捕してくれる。

僕はそう信じることにした。

「刑事さん、実は……」

僕の部屋と妹の部屋は、壁ひとつ。

行方不明になる前夜、時間にして午前3時過ぎ。

となりで流行のK-POPが鳴り響いた。

が、10秒もしないうちにやみ、入れ代わるように話し声。

たまたま起きていた僕は、非常識な時間の着信に眉をひそめながら聞き耳を立てた……。

「“今から行くね”、本当に、そう言ったの?!」

「はい。確実に」

「その時間って……」

宇治木は後部座席にあった鞄から書類を取り出して、勢いよくページをめくり、8枚目をまじまじと眺める。

そして、こう言った。