俺は、宇治木とともに、祐一郎の自宅へ向かっていた。

「本当にあの人は死ぬ覚悟なのか?」

「いいえ、殺される覚悟です。だから、僕にこれを託したんだ……急がなきゃ」

気付けなかったことがくやしくて、手帳を抱えるように握りしめる。



昼間、新八は俺の働く酒屋を訪れた。
『キミにこれを託したい』
と、顧客リストを差しだす。
『こんな大事な物を、僕に?』
『私には勇気がなくてね……キミなら正しく使える、そう思ったんだ。たとえその答えが、私たち家族を白日の下にさらすことになっても』
彼の思いを無下にはできず、受け取った。
だが、妙に胸騒ぎを覚え、宇治木に連絡。
新八がことみ殺害の真犯人を祐一郎だと思っていると聞き、現在に至る。



俺たちが祐一郎の家に着いた頃、空は夕焼けで深紅に染まっていた。

下のコンビニに駆けこみ、両親に訊く。

「祐一郎くんは帰ってきましたか?」

「いいえ。まだですけど……」

念のため、家の中を見せてもらった。

しかし、彼の姿はない。

「今日は部活で遅くなるって言ってましたよ」

「そうですか……じゃあ、学校に行ってみます」

俺は祐一郎と数日間、行動をともにしてきた。

それなのに、またも気付くことができなかった。

今川のような、人に隠された邪悪な一面を。

最悪の事態になる前に、一刻も早く、祐一郎と新八のもとへ辿り着かなければならない。