ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】




すぐに通報し、ほどなくしてやって来た救急隊員。

蘇生を試みることもなく、黙って首を振る。


《自分のことを忘れるのに痛みはない。
だけど、愛する人を忘れてしまうのは耐えられない。》


寝室に置かれた遺書にはそう書かれていた。

読み終えた瞬間、今日の朝を思い出す。

嗚咽が聴こえて目を覚ますと、私に背中を向けて静かにむせび泣く妻の姿。

『磨妃、どうした?』

『私……昨日、まりちゃんに名前を訊いたのよ』

『…………』

私は、返してあげる言葉が見つからなかった。

記憶が抜け落ちている時の記憶を思い出すなんて、病の悪戯にしか思えない。

その苦悩を共有できない私は、神様を恨むしかなかった。

だが、嘆いてばかりもいられない。

プリンをきれいに半分残し、

「ママにあげるの!」

と笑っている娘を見ていたら、泣きたくても泣けなかった。

これからは私が守らなきゃいけない。この命に換えても。

男である私が、湧き溢れる母性を得た瞬間。

それでも、所せましと貼られた付箋を剥がしたときは、まるで心を削がれるような痛みが走った。

決意だけで何事もうまくいくほど甘くない。

家事全般がド素人の私。

男手ひとつで小さな娘を育てるのは、身の潔白を主張する被疑者を落とすよりもはるかに難しく、悪戦苦闘の日々。

妻への愛は変わらないが、妻のいない日常にも慣れていった。

今の私には、磨理子だけが生きがいといっても過言ではない。