それはよく晴れた日曜日だった。
妻の調子もよく、3人で公園に出かけようと言ったんだ。
「ごめんなさい。家のことを済ませたいから、ふたりで行ってきて」
元気だった頃と、なんら変わらない笑顔。
「わかった。昼前には戻るよ」
「ええ。お昼はそうめんでいい?」
「ああ」
「パパー、早く行こうよ!」
私の腕を引く娘の力に成長を感じながら、家を出た。
見えなくなるまで手を振る磨妃の姿が、私には泣いているように見えた。
公園についてからも、なんだか胸騒ぎがして、遊具で戯れる娘にあやうくケガをさせそうになる。
帰る約束の昼が近付くにつれ、悪い予感へと形態を変えた。
「まりちゃん、帰ろう!」
「イヤだーイ゛ヤ゛だ!!」
泣きわめく娘の手を強い力で引き、公園をあとにする。
5才児相手に息をあげつつ家に帰ると、食卓には大きな器に食べきれないほどのそうめんがあった。
「マ゛―マ゛―!!」
父親の横暴に、味方を捜す磨理子。
私は、2つしかない“つゆ”に刑事としてのカンが働く。
「先に食べてなさい、ほら」
磨理子の身体を持ち上げ、椅子に座らせた。
大好きなそうめんを目の前にすると、娘はおとなしくなり、黙々とすすり始める。
「帰ったぞー。磨妃―、いないのか?」
そう広くない家だ、捜す場所は限られる。
「ん?」
浴室の扉が少し開いていた。
擦りガラスの向こうには人影。
私は勢いよく扉を開けた。
「磨妃!!」
そこには、まっ青な顔をした妻の姿。
浴槽に張った湯は、血で赤く染まっていた。
浸かる手を抜き、その力ない身体を引き寄せる。
妻の身体はすでに冷たく、脈もない。
「お゛い、しっかりしろ!」
「…………」
私の呼びかけに返事をしたのは、小さな小さな磨妃だった。
「パパぁ? どしたの?」
このままでは娘に見られてしまう。
とっさに扉を閉め、手で押さえる。
――ガチャガチャ。
「パーパー!」
「まりちゃんッ゛! 冷蔵庫にプリンがあ゛あるから、食べていいよ」
「わぁーい、やったあ!」
――ドタドタドタッ。
勢いよく戻っていく足音。
これでいい。
優しい母親の凄惨な姿と、強くなければならない父親が泣いている姿を、両方見なくてすむのだから。


