大きな事件(ヤマ)が解決して、早くに帰れた日だ。

家の中はまっ暗で、ふたりで買い物にでも出ているのかと電気を点けると、妻がエプロンをつけたまま食卓の椅子に座っていた。

和室では、娘が暗がりで、おままごとをしている。

理解不能な状況に声を掛けると、無気力に振り返ったあとで、

「……ぁ、あなた! 今日は早いのね!」

と言った。

帰れるとわかったときに電話をしたはずなのに、急いで食事の支度をすると言って電話を切ったはずなのに、妻はそれを忘れていたのだ。

私はその日、自分を責めたのを憶えている。

夢が叶ったばかりのときに家庭に入り、家事も育児もすべて任せっきりで、そのストレスが祟ったのだと。

もう少し家族との時間を増やせるようにと、異動願を出したが、後任がまだ育っていないからと受理されず。

もともとお気楽な性格の妻も、

「大丈夫よ! この前は少し具合が悪かっただけ」

と私をなだめた。

その言葉に、甘えてしまったんだ……。

1年後、ついに決定的な出来事が起こった。

「パパを呼んでください。私はひょうどうまりこです。パパはけいさつかんさんです」

これは、110番通報の音声記録。

娘が公衆電話から助けを求めたのだ。

発信元に駆けつけると、娘は電話ボックスのガラス戸に背をもたれ、三角座りをして泣きながら待っていた。

聞くと、幼稚園バスの迎えに妻はおらず、家も鍵が閉まっているという。

携帯もつながらない。

あわてて家に入るも、妻は不在。

私の課の連中も、妻が所属していた課の者も、総動員で捜した結果……。

自宅とは程遠い場所で見つかった。

手には万能ネギが顔を出したビニール袋、足には私のサンダル。

誰がどう見ても、ちょっと買い物に出た格好で。

「家の場所がわからなくなって……私、どうしちゃったのかしらね」

心配した者たちに明るく振る舞っていたが、その表情はとても暗かった。

私はすぐに病院へ連れていき、精密検査を受けさせる。