半年後。

課の電話に出るとき、彼女は“兵藤”と名乗るようになった。

「どうしても刑事になりたくて、血の滲むような努力をしたの」

何度もその話をするクセがある妻の熱意を尊重し、私たちはそれぞれ仕事を続けたままでいた。

決して多くはない、ふたりの時間。

その中で、恋をしていた頃の胸の高鳴りを忘れず、愛という真心を育んだ。

子供を授かったのは、入籍から1年半後のこと。

妻は意外にも、あっさりと警察を辞めた。

血の滲むような努力も、湧き溢れる母性には勝てなかったのか。男にはわからない。

収入源は私の安月給だけとなり、妻に楽を子供に蓄えをと、これまで以上に仕事に打ちこんだ。

週の半分は家に帰れず、初産の磨妃は不安とストレスが溜まっていたと思う。

だが一切、不満を言うことなく、帰ったときは心休まる笑顔を私にくれた。

“かけがえのない”という言葉の意味を教えてくれた人、それが妻。

1年も経たずして、私にとってその存在はふたりに増えた。

3156g、元気な女の子。

顔は妻にそっくりで、名前の“磨妃”からひとつ取って“磨理子”と名付けた。

財布の中に入れて持ち歩く写真は、半年ごとに更新され、自分でも驚くほどの子煩悩ぶり。

それでも、家にあまり帰れないのは相変わらずで、娘が私を父親だとしっかり認識したのは2才になってやっとだった。

この頃から、妻に異変が起きはじめる。