……あれから11年。

妹のことみは、死んだ。17歳という若さで……。

学生服は学校で着る物だと思っていたのに、僕は今、妹の葬式でそれを着ている。

静かに目を伏せる母と、膝の上で拳を握りしめる父。

『笑った顔が母ちゃんにソックリだね!』

会うたびにそう言っていた近所のおじさんも、今日ばかりは口をつぐんで献花台の前に立つ。

参列することみの同級生は、成長しても人気者だった妹を偲び、鼻をすすりながら涙を流す。

「手に大ケガをしたばかりで……これからはいいことばかりがあの娘に起こるんだろうと思ってた。なのに……犬の散歩に行った先で、襲われて殺されるなんて……あんまりじゃない……」

母は、妹の将来をずっと危惧していた。

1ヵ月半前、友達と深夜に遊んでいた妹は、不幸にも通り魔に遭ってしまう。

そのときに小指を切断する大ケガをした。

あの日から外に出ることを恐がり、学校にも行かず部屋にこもっていたが、ようやく元気を取り戻した矢先のこの事件……。

ハンカチを目に押し当て、泣き崩れる母。
僕は肩で身体を支えながら背中をさする。

「母さん、しっかりして! 犯人が捕まるまで、泣いちゃダメだ。今ここで悲しんだら、ことみが浮かばれない」

「……そ、そう゛ね」

本当は知っている。犯人を。

妹が行方不明になる直前、ことみの親友である長谷川菜摘の姿を見た。

彼女は、冷酷極まりない瞳でこっちを見おろしていた。

殺気に満ち満ちた目で……。

犯人がいまだ逮捕されない以上、そのフラストレーションは警察にぶつけるしかない。

ちょうどいいタイミングで、ある男が弔問に訪れる。

「ぁ、宇治木さん。わざわざすみません」

母は深々とお辞儀をし、力なく顔をあげた。

「いえ……こんなことになって、とても残念です」

他人とは思えないほど悲痛な表情を浮かべる中年男性。

妹の遺影を見つめる時間も長い。

シワだらけのスーツに無精ヒゲ、生気のない見た目にそぐわない鋭い眼光。