『無人島に持っていける物を、1つだけ選べるとしたら?』
この質問を祐一郎にぶつけたら、きっと彼は、「カメラ」と答えるだろう。
受付でそれを受け取る表情は、俺にそんなことを思わせた。
それほどまでに大事そうに受け取っていたから。
……さて。
沙奈をもとの沙奈に戻すため、これからどこへ向かうべきか、なにをすべきか。
今はさっぱり、見当もつかない。
……ん!?
そのとき、横にいるはずの祐一郎がいないことに気付く。
すぐさま身体を反転させると、彼は森の方を見て、呆然とたたずんでいた。
「どうした?」
「……ぁ、そこ」
人さし指が示す場所には……木陰から、こちらを凝視する白髪混じりの男。
……あの人!
「まさか!?」
ゾワッと鳥肌が立った。
つい先日見たばかりの顔が、そこにある。
ちがうのは、みすぼらしい見た目。
俺が見たのは、白いタンクトップに裾の長いズボン、黒い鼻緒の雪駄を履いた姿。
するとその男は、俺たちの視線を確認すると、立ち並ぶ木々の奥に消えていく。
「ヘンな人……僕らの方ずっと見てたよな?」
俺は、衝動的に追いかけた。
「ぉおい! 敬太!」
祐一郎は俺の背中についてくる。
1週間前にここを訪れたとき、森の中から視線を感じた瞬間があった。
あのときは気のせいだと切り捨てたが、実際はそうじゃなかったんだ。
だとしたら、彼はなんのために、身を潜めているのか。
こんな辺鄙な田舎の森の中で。
なにより、君江のいる病院の近辺で。
その理由を確かめたくて、無我夢中で木々を抜けていく。


