「大橋くん! 待ってたわよ」
そばに行こうとすると、すかさず職員が割って入る。
「接触は控えてくださ……」
「いいんだ! 彼らは大丈夫」
警備員が職員を呼び寄せ、肩を抱きながら談話室を出ていく。
去り際、下手なウインクで俺に合図を送って。
これが大人の仕掛ける粋な計らい。
「まぁ、気が利くわね……クスッ」
笑ったその顔には、まっ赤な口紅と淡い頬紅。
「お綺麗ですね」
「ま! お世辞が言えるなんて、立派なオトナ」
「「ハハハハッ――」」
「……ぁ、で、彼がさっき言ってた友人です」
「はじめまして。前原祐一郎といいます」
「祐一郎くん? こんな遠い所まで、ご足労いただいて……」
――パチッ。
「「イ゛ッ」」
ふたりが握手を交わそうとすると、音がするほどの静電気が走った。
「す、すみません!」
「いえいえ!」
一瞬の間を置き、固く手のひらを合わせる。
俺としたときは、なかったこと。
このふたり、なにか通じるものがあるのかもしれない。
「もしかして、運命的な出会いなんじゃないの?」
「コラッ、敬太くんったら!」
「「ハハハハッ――」」
笑いながら、椅子に座る3人。
今日は他愛もない会話に時間を割いている余裕がある。
祐一郎も饒舌で、初対面の君江を何度も笑わせ、そのたびに彼女の真珠のイヤリングが揺れた。
「そんなことより、また日記を借りて、得たモノはあったの?」
「ぁそうだ! ……これ。ありがとうございました」
俺は日記を返して言う。
「新たな発見があったんです」
「あら……ぜひ、聞きたいわ」


