僕は、前原祐一郎。静岡の県立高校に通う3年生。

趣味は写真を撮ることで、日頃から常にシャッターチャンスを狙っている。

その趣味が高じて、今は写真部に所属し、休みの日は両親が経営するコンビニを手伝う日々。

そんな僕には、とても大切な人がいた。

恋人でも友達でもない、もっと近しい存在。

この思いの始まりは、僕がまだ幼い頃……。


公園の砂場で、お城を作って遊んでいる女の子。
大きなリボンでひとつに結び、ヒラヒラのフリルが付いた格子柄のワンピース。
笑うと右頬にだけ“えくぼ”が映える、団地のアイドル。
しかし、僕の幼なじみの延岡正人が足蹴にしてお城を壊してしまった。
よくありそうなこと。
好きな子ほどイタズラしたくなる、不器用な年頃。
そんなこととは露知らず、女の子は激しく泣きながら立ち向かう。
が、当然相手の力は強く、すぐに押し倒された。
僕はサッカーに夢中になっていて、気付いたのはそのとき。
すぐさま駆けより、正人を追い払(はら)ったあとで、『ケガはないか?』と小さい身体を抱き起こす。
『おにぃちゃん……』
『ことみ、ちゃんと見てなくてごめん』
まみれた砂をはたくが、格子柄の白い部分が泥で汚れてしまった。
当時、妹が一番気に入っていた服。
ことみはそれを見るなり、公園を散歩中の犬が怯えるほど泣きじゃくる。
『泣くなって! 頼むよ……』
『だっ゛て゛、グス゛ッ』
『洗濯したらキレイになるから!』
『……ホント?』
『あぁ!』
大げさに返事をしてみせると、純粋無垢な妹は笑った。
『早く家に戻って、洗濯機に入れよう!』
『……でも、お母さんが帰ってくるまで洗えないね』
『大丈夫! お兄ちゃん、動かし方知ってるぞ!』
『ウソ~!? すごーいっ!』
僕たちは手を固く繋いで走った。歩幅のせまい妹のスピードに合わせて。
帰りつくやいなや、脱衣所で身ぐるみ剥がす。
あっという間に、床がキメの細かい砂でザラついた。
洗濯機のせいで勢いが弱いシャワー。
髪についた泡を丁寧に洗い流してやると、両手で顔を覆いながら妹は言う。
『おにぃちゃん。ことみのこと、ずっと守ってくれる?』
『うん! 守ってあげるよ』
『ホントぉ? じゃあ指切りしょっ!』
目に入らないように必死に顔を覆いながら、小指だけをちょこんと立てる。
その愛くるしい仕草に、僕も小指を絡ませた。
『せーの!』
『『指・切り・げん・まん・嘘ついたら・針・千・本・飲~・ます! 指・切った!!』』