大学は今日も大勢の生徒達で賑わってる。

講義を終えた教室から出てくる人の波を、紀伊ちゃんと逆行する。


北本先輩の受けてる講義は廊下の突き当たりのはずだ。

朝、学校に来た時に調べておいたんだよね。




「女連れじゃないといいんだけど」

「うん、だよね」

「面倒な事は極力させたいものね」

紀伊ちゃんの言葉に頷く。


女の子がいたら厄介だもんね。

可笑しな嫉妬を向けられたくもないし。


ぞろぞろ歩く生徒達の向こうに、目的の人物が見えてくる。

彼の高い身長は、目印にちょうどいい。

澁谷先輩と並んでるから更に目立ってる。


「北本先輩は、女の子連れてないわね。渋沢先輩は相変わらず両手に花だけど」

にひくって笑う紀伊ちゃん。

「両腕に女の子をぶら下げて歩きにくくないのかな?」

渋沢先輩の隣でキャッキャと騒いでる女の子達に目を向けた。

「確かにね。歩きにくいに決まってるわ」

呆れ顔の紀伊ちゃん。


「でも、澁谷先輩っていつも楽しそう」

「それはどうかな?」

「えっ?」

紀伊ちゃんの意味深な言葉に目を丸くする。


「だって、あいつの目、いつだって本気で笑ってないのよね」

澁谷先輩をちらりと見る紀伊ちゃん。

相変わらず辛辣だな。


へぇ・・・そうなんだ。

紀伊ちゃんて、人間観察上手だよね。


「そっか・・・」

「ほら見て、あの笑い方、気味悪い」

サクッと毒を吐く紀伊ちゃんに苦笑いする。


「澁谷先輩の笑ってない目を分かってるのは紀伊ちゃんぐらいだよ」

「そうね。あの胡散臭い笑いで騙されてる女の子も見る目がないわね」

「私も分かんなかったけど」

フフフと笑って肩を竦めた。


「千景は澁谷先輩に興味がないだけじゃないよ」

「まぁ、それは言えてる」

澁谷先輩がどうであれ、私には関係ないし。

注意して見てないもんね。