放課後になり、紀伊ちゃんと校門へと向かう。

今日は珍しく二人ともバイトのない日、久しぶりに一緒に帰れる。


「晩御飯、なんにする?」

「そうね。焼き肉でもやっちゃう?」

紀伊ちゃんはニカッと笑う。


「うん、いいね」

帰りに商店街の肉屋に寄ろう。

二人揃う日じゃないと焼き肉や鍋は出来ないもんね。


朝のモヤモヤした気持ちはすっかり晴れる。


「よう! 凸凹コンビ」

「げっ、渋沢先輩」

声のした方に顔を向けた紀伊ちゃんが、物凄く嫌そうに顔を歪める。


「そんな顔すんなって。美人が台無し」

「煩いです。千尋、早くいこ」

私の手を引いて急いで歩き出した紀伊ちゃん。


「まぁ、そう慌てんなって」

余裕の顔でついてくる渋沢先輩は、今日は一人らしい。

北本先輩が居ないことにほっとする。

「ついてこないで」

紀伊ちゃんは渋沢先輩を睨み付ける。

渋沢先輩がついてくるから、女の子達の視線が集まってきた。
 

うわぁ~迷惑。

この人一人でも、女の子がこんなに集まってくるんだ。

イケメンの力って凄いな、他人事のように感心する。



「今日は焼き肉パーティーなんだろ? 俺も仲間に入れてよ。材料費、俺持ちで」

「はぁ?」

ああ、紀伊ちゃん美人が台無しなほど顔歪めすぎ。

と言うか、渋沢先輩はどこから私達の話聞いてたの。


「な、な、いいだろ?」

「言い分けない」

紀伊ちゃんの言う通りだ。


「眼鏡ちゃんも紀伊ちゃんに言ってやってよ」

私を見る渋沢先輩。

眼鏡ちゃんて、なんだ。

そもそも、私がどうして言わなきゃなんないのよ。


「嫌ですよ。私は紀伊ちゃんと二人が良いし」

渋沢先輩を誘わなきゃいけない義理はない。


「そうよね。私も千尋と二人がいいわ」

「「ねぇ」」

顔を見合わせて頷き合う。


「二人とも冷たい」

寂しそうな顔をした渋沢先輩に、ちっとも心が痛まないのはなぜだろう。


「私達じゃなくても、ほら、向こうのお姉さん達が遊んでくれますよ」

紀伊ちゃんはこちらを睨んでる先輩達を指差した。

彼女達は、渋沢先輩の視線が向くや否や、醜く歪めた顔を笑顔に変える。

なんて早変わり。


「はぁ・・・仕方ない。今日はあれで我慢するか」

なんて言いながら女の子達に、ヒラヒラと手を振った渋沢先輩。

キャーキャー騒ぐ女の子達。


渋沢先輩、ちゃっかり遊ぶんじゃん。

そして、誰でもいいみたいね。


紀伊ちゃんと目を合わせて、更に速度を上げて大学を後にした。