ー紀伊sideー


うちの大学には占いババが居る。

ババと名がついているが、実際はうら若き女子大生。

黒髪を後ろで一つに纏めて、分厚い瓶底眼鏡をかけた、真面目に勉強してますて言うフォルムのその子は私の親友。

名前を神宮司千尋(ジングウジチヒロ)と言う。

彼女とは中学二年からの付き合いだ。


千尋の占いはよく当たると、昔から有名で希望者が後を断たない。

でも、残念ながらそれは自分以外に対してなのだ。

それでも彼女は占いを信じて、占いの通りに生きている。

今の彼女のフォルムも、自分の占いで出た結果だ。






今日も彼女の周囲には恋する乙女達が我先にと群がってくる。

休み時間毎に、こんな事態なので彼女が疲れてしまわないかと心配だ。


机に頬杖をついて、タロット占いをしてる彼女をぼんやり見つめる。


「彼氏さんの気持ちは離れつつあります。それを引き留めるには、貴女が変わらなければいけないですね」

千尋の声は愛らしくて心地いい。

「どんな風にしたらいいのかな?」

そう質問する女子の顔は必死だ。


「そうですね。優しさを常に心がけてください。自分の気持ちだけを押し付けるだけじゃなく、相手の気持ちも推し量ってあげてください」

タロットを捲りながら答えた千尋に、


「分かった。ありがとう」

笑みを浮かべて感謝した彼女は立ち去っていく。

千尋はその子の後ろ姿を見送りながら口元を緩める。


「次は私」

「待って、私よ」

「私だって」

醜い争いを始めた女子生徒に溜め息を漏らした時、講義開始のチャイムが鳴った。

千尋は無言でタロットカードを片付け出す。



さ、私の出番だ。

立ち上がって千尋の側に行くと、わらわらと群がる女子生徒達に声をかける。


「はい、終了。またの機会をお待ちください」

笑ってない瞳で彼女立ち去っていく一人一人を見据える。


不服そうにしながらも、彼女達は大人しく去っていく。

休み時間に二人だけ、チャイムが鳴った終わり、それがルール。

高校の頃に際限無しにやっていて、千尋の体調が悪くなってから私が決めた。


千尋の善意で占ってもらってるんだから、ルールは守ってもらわないとね。



「紀伊ちゃん、ありがと」

「良いのよ」

申し訳なさそうに言う千尋に笑いかけた。