東の館のホールに着くと、コゼットが傍に来た。
「お疲れ様です、着替えてテラスでお茶でもいかがですか?」
「そうね、そうしましょう」
部屋に戻りワンピースに着替えると、二階の南向きのテラスに出た。
「いい天気で、気持ち良いわね」
「本当に……」
コゼットが淹れたお茶を飲んでいると、失礼します、と声がかかった。
見ると、東の館の料理長が盆を持って立っていた。
「妃殿下がテラスでお茶を飲んでいらっしゃると聞きまして、我々からの差し入れです」
盆の蓋をとると、リンゴのタルトがあった。
「まあ、ありがとうございます。焼きたてですか?」
「ええ、どうぞ」
と丸いタルトを切り分けてくれた。
「残りは厨房の皆さんでお茶にしてください」
「え?………構わないのですか?」
「ええ………だって、こんな美味しいもの、皆さんでもゆっくり食べて?
いつも、美味しい食事を作っていただいているのに、たまにはゆっくりしてくださいな」
「ありがとうございます、失礼します」
料理長が去って行った。
「妃殿下、お優しい……残った物はこっそり食べるつもりだったのかもしれないけど、あんな風に言われたらみんな堂々と休憩できますわね……
そうそう、この前、街でね………」
コゼットの街中で偶然見かけた面白い場面の話や、侍女達の笑い話に、久しぶりに心から笑った。

