身代わりの姫


ノックされてドアを開けると、コゼットの後ろに黒髪で前髪を残して後ろにまとめた、クリクリした目の女の子がいた。


「この子がボンですわ。リリア様」


「ボン、よろしくね」


そう言うと、体をぎゅっとしてお辞儀をした。


「ボンは、愛称ですのよ、リリア様。
ボノエール、が本名ですわ。
この街のことに詳しいのです」

「そうなの?何かお土産とかに良いものはある?」


「王家はイシミと言う工房の焼き菓子が御用達なんです。
でも、庶民はミューゼと言う焼き菓子をお見舞や土産にしています。

あとはやっぱり、貴金属ですわ」


「そうね、貴金属は素晴らしいわね。
イシミと言うのも覚えがあるわ。

民はどんな生活なの?」


「城下町はわりと平和です。酔っ払って兵士が喧嘩することもありますけど、まあ、しばらくはコンレイ期間で兵士には休みがないし、飲み会だらけでしょうね」

「どういうこと?」


兵士がいると、兵士がもてすぎるから兵士が忙しい時期は、庶民の男の子が女の子をつかまえる良い機会なのですよ、とケラケラ笑って話してくれた。


兵士は体格も仕事も格好良く見えるらしい。


王子は?と聞くと


「実は、街で時々見かけるんですよね。

私は城にいるから分かるけど、普通に庶民と喋ってますよ、それもだれも気付かないし」


意外な行動範囲に驚きながら、

「あなたも王子と一緒になるの?」

と聞いた。

「無理ですよ。城で、あ、こないだの、って言われたくないですから」

と慌てたり、ちょっとジルの表情を真似たり、コロコロ顔を変えながら話すボンは楽しかった。



噂話や、流行り物の話を聞いていると、ガチャ、とドアが開いて、ジルが帰ってきた。