「えっとですね、まだ少し混乱してるんですが……」



 アリシアを人の少ない場所まで連れていったイルヴィスに、額を押さえながら問う。



「イルヴィ……貴方が何故このような所に?」


「私がここにいてはおかしいか?」


「いやおかしいでしょ」



 思わず素のトーンで返してしまった。アリシアは慌てて咳払いをし、誤魔化す。



「とにかく!変装しているからと護衛も付けずにこんな所に来るなんて……!有り得ません!」



 今のイルヴィスは、綺麗な金髪を無造作にまとめ、服装もいつもに比べると地味なものだ。



「それは貴女にも言えることだと思うが」


「わ、わたしは……こういう場所も慣れてますし……」


「この(いち)にも来たことがあるのか?」


「それは初めてですけど……」


「そうか。私もだ」



 イルヴィスは言葉をきると、口もとに笑みを浮かべながら周囲を見渡した。



「先々月から始めたのだが、成功したようだな」



 聞けば、この輸入市は港町を活気づけるためにイルヴィスが発案したそうだ。

 今日はお忍びで視察に来た、ということらしい。



「何か良いものは見つけたか?」


「あ、はい!」