(ええっと……まさか)



 先ほどアリシアにぶつかってきた子どもが慌てたように謝罪している。



「ごめんなさいっ!」


「人の多い場所で走っては危ない。気を付けなさい」



 子どもが返事をして、今度は歩いて去っていった。

 それを見てアリシアは、とりあえずフッと息を吐いた。



「あの、ありがとうございます」



 意を決して、受け止めてくれた人の顔を見る。



「イルヴィス殿下……」



 その人──グランリア王国第一王子イルヴィスは、薄く微笑んだ。

 そして、右手の人差し指をアリシアの唇にそっと当てる。



「気にするな。だが、ここで『イルヴィス殿下』はやめろ、アリシア」