いつもより少し身軽な服に身をつつみ、よく目立つターコイズブルーの髪は無造作にひとまとめ。


 平民らしく見えるよう気を使ったファッションで、アリシアは賑わう街を歩いていた。


 今日は久々に、誰にも告げずにそっと屋敷から抜け出してきた。家の誰かに言えば、こんな格好で出かけることはできない。



(それにしても、あの人と会うのも久しぶりだわ。元気にしていれば良いけど)



 大通りから一本外れた道の奥に、アリシアの目的地はあった。



 Cafe:Lily



 木製の板に、分かりづらい文字で店名だけ書かれた看板。それだけが、この場所がカフェであることを示すものだった。


 そんな外観からも想像できるだろうが、特別人気のある店ではない。それでも雰囲気は落ち着いているし、紅茶やお茶菓子は一級品の味で、常連客は多い。



 カフェの戸を開けると、カランカランというどこか心地よいベルの音が鳴る。

 混雑する時間帯を避けたこともあり、店内に客はほとんどいなかった。



 ベルの音により客が来たことに気がついた店の女性が、アリシアを見て驚いた顔をした。



「わあ!アリアさんじゃないですか」