「アリシア」


「はいっ!」


「王宮の出入りを許したのは、貴女と交流する機会を持ちたいという考えからだったのだが」


「あ……」



 それを聞いて、アリシアはやっと気がついた。イルヴィスは、婚約者に会うこともせず、この庭園に入り浸っているのに苦言を呈しに来たのか。その場合の言い訳を考えていなかった。



「殿下は、いつもお忙しそうでしたので……」


「以前はそう断ってしまったらしいな。それはこちらもすまなかった。だから……」



 イルヴィスは、はらりと垂れた髪を耳にかけて微笑む。今度は目も柔らかな印象になったように思える。



「これから毎日、私のために茶を淹れてもらえないだろうか」


「お茶を……わたしが、ですか?」



 全くもって想像していなかった言葉に、アリシアは思わず服の裾を強くつかむ。



「ですが……」


「私のために茶を選び、淹れる。ただし、茶は二人分準備し、ティータイムは必ず私と一緒に過ごすという条件で」



 なるほど、そう決めてしまえば確実に交流の機会が生まれる。しかも、彼はアリシアの趣味を認めた上で提案してくれているのだ。


 だが、こうやって話しているだけで息が詰まるような相手と毎日一緒にティータイムを過ごすことなどできるだろうか。