「すみません、遅くなりましたアリシア様……おや、イルヴィス王子もおいででしたか」



 息が詰まりそうな気分の中、ミハイルの声が聞こえて少し力が抜ける。一通り案内を終えて戻ってきたようだ。

 イルヴィスはそんなアリシアと対照的に、どこか残念そうな表情をして振り返った。



「ああ。邪魔している」


「お茶でもお持ちしましょうか?」


「いやいい。先ほどアリシアの淹れた茶を副メイド長に持ってきてもらったばかりだからな」



 助けを求めてこっそりミハイルの方に視線をやると、ミハイルの後ろでノアが目をキラキラさせながはアリシアとイルヴィスを見ていた。

 ノアはミハイルのそでをちょっと引っ張り、何かを耳打ちする。ミハイルはそれにうなずいて、微笑んだ。ノアの瞳に劣らないキラキラ笑顔だ。



「そうですか。では、こちらの隅で作業をしているので、お気になさらないでご歓談ください」


(ちょっ、ミハイルさーん!……ノア、ミハイルさんに何言ったのよ!あー、行かないで二人とも)



 アリシアの心の叫びも虚しく、二人は本当に隅の方へ行ってしまった。それでもまあ、二人が同じ空間にいるというだけで、幾分か気分は楽だろうか。