「どうなさいましたか?」


「この茶は、お前が選んだものではないな?」



 この国の王宮にはお茶係という役職がないため、紅茶を選び、淹れるのは副メイド長の仕事だ。彼女は専門の知識を持っているわけではないので、いつも質は良いが無難な紅茶を淹れている。

 だが、今日の紅茶はそんな「無難な紅茶」とは少し違う。



「ミントを混ぜてあるようだ」



 鼻にスっと抜けるような爽やかな香り。疲労により鈍って頭が覚醒するような気分になる。



「はい、その通りでございます。……ある方から、殿下がいつもお飲みになっているお茶にブレンドしてはどうかと提案されまして」



 口に合わないようならば普通の紅茶も用意していると言う副メイド長を制して、イルヴィスは立ち上がりティーカップを手に取った。


 香りだけでなく、味も目覚めるような爽やかさ。いつもの紅茶の味もしっかりとしていて、紅茶とミントはお互い打ち消すことなく上手く調和している。美味だ。



「……お前の言う『ある方』とは、我が婚約者殿のことだな?」



 副メイド長は少し驚いた様子で手を口もとにあてた。