「第一王子であらせられるイルヴィス様が、お前を正式に妃として迎えたいとのことだ」


「……え?」



 少しも予想していなかった話に、アリシアは言葉を失う。



(第一王子が、わたしに求婚……?)



 衝撃と動揺でクラりとする。

 周囲で話を聞いた使用人たちが、驚き、祝福しているようだが、アリシアの頭にその声が入ってこない。それどころか、クラりとした感覚が、次第に頭痛のようなものに変わってきた。



(第一王子のイルヴィス・グランリア様……そして、その婚約者のアリシア・リアンノーズ…つまりわたし)



 頭が鈍く痛む。だがこの感覚には覚えがある。頭の奥底に眠っている記憶が、呼び起こされようとしている時、このような痛みを感じることがあるのだ。

 そう、これは頭の奥底に眠っている記憶だ。



「黒髪、メイド……」



 アリシアは、すぐ近くにいる父や使用人たちにさえ聞こえないような小さな声で呟いた。呟いたというより、自然と口から漏れ出たという感じか。



「だから、2日後に一度登城するようにとの……」



 父の声が、次第に遠のいていく。朦朧とした意識も、とうとう限界を迎えたらしい。

 グラリとふらついたかと思うと、アリシアはその場でうずくまるように倒れた。