その質問に、彼は「ラベンダーが好きだから」と答えていた。

 答えになっていないし、適当に誤魔化したくて言っただけなのだろうが、ラベンダーが好きだということ自体は嘘ではないだろう。

 だからアリシアは、イルヴィスに会うときは、いつも必ず香水代わりのラベンダー水を付けている。



「ラベンダーだけだと香りが強いし、味も飲みにくいので、ニルギリの茶葉をベースにドライラベンダーで香り付けする感じにします。氷で薄まるのでお湯はいつもより少なくして濃く出して……」


「ラベンダーの香りは強すぎたら飲みにくいが、楽しめるぐらいには香らないと意味がない、か?」


「そうなんです!!この調節が難しくて……って、よくご存知ですね」


「まあ、勘だ」



 そう言ったイルヴィスは、懐かしいものを見るかのように目を細めて笑っていた。




 数分蒸らしてポットの蓋をとると、湯気と共に優しい香りが漂い、鼻腔をくすぐる。

 アリシアはガラスのコップに氷をたっぷり入れ、熱々のラベンダーティーを注いだ。


 ピキピキ、ジュワっと氷が溶ける涼しげな音がする。

 蜂蜜を少量加え、スプーンでくるくるとかき混ぜてから、イルヴィスに差し出した。