……いや、それは決心のつかない自分への建前に過ぎない。
本当に不安だったのは、自分が愛したのはカフェで出会った庶民の少女「アリア」であり、伯爵令嬢の「アリシア」ではないかもしれないということだった。
貴族の令嬢というのは、甘やかされて育った傲慢で欲深く、自信過剰な女が多い。
学園で出会ったほとんどの令嬢がそれで、イルヴィスはそんな彼女らが苦手だった。
もし貴族としてのアリシアがそのような人物だったら、思い出の中の「アリア」が消えてしまう気がする。
それならばアリシアに近づいたりせず、初恋の少女を永遠に思い出の中に留めておいた方が良いのではないか。
そんな葛藤と共に結婚話を断り続けて4年。
妃をめとらないことについて、とうとう父から苦言を呈された。民を安心させるためにも、せめて結婚の意志があることだけでも示しておけ、と。
仕事のほとんどをイルヴィスが請け負っているとはいえ、あくまで父は国王。国王の命令には逆らえない。
結局、いくらかの令嬢を招待して、茶会という名の妃探しを行うことにした。
アリシアを招待するかどうかはギリギリまで悩んだ。
悩み抜いた末、少し顔を見るだけなら、と招待することを選んだ。



