それ以来、忍んで街へ出るどころか学園すらも辞めて、王代理として完全に公務に集中する生活が始まった。
学園はもともと社交場という性格が強いもので、優秀なイルヴィスには教育の面では何も支障はなかった。
王がほとんど公務から手を引いたにも関わらず、大きな問題もなく国が回っていたのは、国王の臣下の力添えはもちろんだが、イルヴィス自身の優秀さによるところが大きい。
すっかりと変貌した生活の中で、初恋の少女の存在は薄れつつあった。
ただ、結婚話が出てくると、決まって彼女の顔が頭をよぎった。そのせいか、持ちかけられた結婚話は無意識のうちに突き返していた。「まだ妃など必要ない」と。
結婚の話が出るたびに彼女を思い出すくらいなら、いっそアリアを──否、アリシア・リアンノーズを妃に迎えるべきではないか……。
それも何度も考えたが、踏ん切りがつかなかった。
リアンノーズ伯爵家は、まあまあ力のある家ではあるが、繋がりができたところで王室側のメリットはあまりない。彼女自身もまた、目立って良い成績を残したような人物でもない。
そのような彼女を突然妃に迎えれば、色々と反発が起こるだろう。



