第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



 アリアは呼吸を整えるように数回深呼吸をする。



「あ……えっと」



 ようやく口を開いたとき、空がピカっと眩く光った。それからすぐにゴロゴロと腹に響くような音がする。



「割と近くに落ち……」


「いやあっ!」



 イルヴィスの声を遮るようにして叫んだアリアが、ギュッと抱きついてきた。



「アリアっ!?」



 動揺して上ずった声が出る。

 袖にしがみついているアリアの手は小さく震えていた。



「もしかして……雷は苦手なのか?」



 問いかけると、彼女はガクガクと何度もうなずいた。

 再び雷鳴が轟くと、しがみつく力がいっそう強くなる。



「大丈夫だ、私はここにいる。ゆっくり息を吸えるか?」



 アリアはその言葉に従い、ゆっくり深呼吸を繰り返す。

 次第に落ち着きを取り戻してきたようだが、依然雷鳴は止まない。



 イルヴィスはそっとアリアを抱きしめた。

 この少女のことを守りたい。怯えた顔をさせたくない。

 ハーブティーのことを語るときのような笑顔をずっと見せていてほしい。


 そんなことを強く思った。



「イルさん……ありがとう。もう大丈夫」



 やがてアリアはそう言ったが、イルヴィスは聞こえないふりをして抱きしめ続けた。