第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



 そんな日々が続いていたある日。

 いつも通り店でしばらく過ごしていたが、珍しくアリアが姿を現さなかった。

 だが珍しいとはいえ、今までもそんな日はあったので、何か用事があったのだろうと思い、イルヴィスは諦めて学園に戻るため席を立った。


 外は小降りながらも雨が降っており、時々雷鳴が響いていた。


 本格的に降ってきたら厄介だ。そう思って急ぎ足で歩いていたが、結局雨足が強まってきたため一度軒下に入った。

 今日はもう授業を受けるのは諦めようか。そう考えながら足下を見て、思わずギョッとした。


 誰かが小さくうずくまっている。耳を塞ぎ、顔を伏せていたがすぐにわかった。



「アリア……?」



 店には来ていなかったが、まさかずっとここにいたのか。

 彼女はイルヴィスの声に気づかず、うずくまったまま震えている。



「アリア」



 今度はコンと肩を叩いた。

 ビクリと肩を震わせてから上げたアリアの顔は、恐怖にこわばり、今にも叫び出しそうだった。

 イルヴィスは思わず彼女の口を押さえて言う。



「落ち着いてくれアリア。私だ」


「イル……さん?」


「こんな所でいったいどうしたんだ?」