アリアは、イルヴィスが苦手意識を持っていた、ハーブのみを使ったハーブティーも好んでいた。そのため、彼女をガッカリさせないよう人知れず味に慣れる努力をしたりもした。
一日のうち僅かな時間しか会っていないし、そもそも店に行けない日もあった。だが、アリアといるその少しの時間は楽しく、心安らぐものだった。
そんな中、一つアリアに関して気になることがあった。
彼女は服装こそ粗末でいかにも庶民らしいものを身に付けているが、ちょっとした仕草などにどこか気品があり、育ちの良さを感じさせる。
そう思っていたものの、まさか王室の主催する園遊会で彼女を見かけることになったのは予想外だった。
いつもより美しく着飾られてはいたが、あの珍しい髪色とパッチリとした瞳は、紛うことなくアリアだった。
驚いたイルヴィスが従者に尋ねると、彼女はリアンノーズ伯爵家の三女、アリシア・リアンノーズであると聞かされた。
人のことは言えないが、本名が「アリシア」なら「アリア」というのはだいぶ安易な偽名を使ったものだ。
話しかけるべきなのだろうか。迷ったが、結局そうはしなかった。
今彼女に話しかけたら、あのカフェで紡いできた関係性が壊れてしまうと思ったからだ。
だから正体を知った後も、そのことは言わず、あくまで彼女はアリアだとして接し続けた。



