少女はイルヴィスの答えなど聞く素振りを見せず、琥珀色の液体をカップに移し、イルヴィスの前に置く。
それから何故かそのまま隣に座った。
「このお店の紅茶にラベンダーをブレンドしてみたんです」
期待の色に染まった丸い瞳に見つめられ、何としても飲まねばならなくなったことを悟る。
正直気は進まないが、恐る恐る匂いをかいでみる。
ふわりと、甘いようでどこか爽やかな、心休まる香りがした。飲んだことのあるハーブティーに比べれば、香りはかなり優しい。
「ん、意外に飲みやすい」
一口飲むと、自然とそんな感想が出てきた。
それを聞いた少女は嬉しそうにうなずき、ずいっと顔を近づけてきた。お茶と同じ香りが、彼女自身からもふんわりとする。
「でしょ?ラベンダーの強い香りが苦手な人でも飲みやすいように紅茶を多めにして、蜂蜜で味を整えたの。それでいてラベンダーの香りを楽しんでもらえないと意味がないから、その辺の調整が……」
「ア〜リ〜ア〜さ〜ん」
得意気に解説していた少女を、先ほどの店員と思しき女性が遮った。
彼女はイルヴィスが注文した紅茶をテーブルに置くと、少女のことをコンと小突いた。



