「お嬢様!準備は整いましたか?」


「ええ。悪いけど髪だけお願い」



 アリシアは自室にノアを通し、鏡に向かって座る。

 ターコイズブルーの長い髪を丁寧にとかしたノアは、鏡の中のアリシアを見てクスリと笑った。



「お嬢様、楽しそうですね」


「そう?」



 少しとぼけてみるが、浮き足立っているのは自分でもわかる。

 だが、それは当然と言えよう。久しぶりにイルヴィスと二人のティータイムが許されたのだから。



「もうハーブティーは、その……飲んでも大丈夫なのですか?」



 ノアは嬉しそうに笑った後、思い出したように問うた。

 アリシアがハーブティーや紅茶に強い拒否反応を示していたときからあまり時間が経っていない。まだ不安が残っているのだろう。



「ふふ、もう全然平気よ!『アリシア・スペシャル』を調合しているうちに大丈夫になっていったみたい」


「ああ、なるほど……」



 仕返しのために用意したあの苦い薬草茶。可能な限り苦く不味くなるよう調整していたため、嫌でも味見を避けられず、どうやらそのまま克服していたらしい。

 気づけば口直しにいつもの紅茶を飲んでいたくらいだから、完全に立ち直れたのだろう。