「わあっ……!」



 昨日と同じように馬車に揺られ、城へ到着したアリシアは、庭に咲き誇る花々を見て歓声を上げた。

 初夏の今は、色や大きさが様々なバラに、小さくて可愛らしいポピー。存在感のあるダリアや甘い香りの百合もある。



「本当、見事ですねぇ」



 付き添いとして共に登城したノアも真剣な顔でうなずく。



「リアンノーズ邸の庭も、お嬢様の努力のかいあって、とても美しいですが……」


「やっぱり桁違いよね。すごいわ」



 こんなにたくさんの花があるのに、どの花も霞まずどれもが映えている。さすがプロの為せる技である。

 リアンノーズ家では庭師を雇っていない。昔はいたのだが、アリシアが自分の手で庭をいじり回してしまい、仕事ができなくなって皆辞めてしまったのだ。



「でも本当に広いわね。あ、あっちにマーガレットが……行ってみましょノア?……あれ、ノア?」



 迷路のような広大な庭。興味のそそられるままに歩き回っていたら、いつの間にか傍にひかえていたはずのノアがいなくなっていた。

 周囲を見渡してみるが、どこから来たのかよく分からない。



(これはまずい……誰かいないかしら)