(でも、明日からいつでもあの広い庭に行けるのね)


 沈みこんでいたアリシアは、王宮への自由な出入りが許されたことを思い出し、少しだけ気が晴れる。自分でも実に単純だとは思ったが。

 広くて、季節ごとにたくさんの花が咲き誇る王宮の庭園。きっとハーブや薬草も育てられているに違いない。



「ねえ、ノア」



 アリシアは髪を洗ってくれている、赤茶色の髪の歳若いメイドに告げる。



「わたし、明日さっそく王宮へ行ってみようと思うの」


「まあ。お嬢様が……」


「え?」


「イルヴィス王子にお会いしに行くのでしょう?
今まで殿方に少しも興味を示さなかったお嬢様が自ら会いに行こうなんて、本当に素敵な人なのでしょうねぇ」



 ノアはうっとりした表情で言う。彼女はどうやら、アリシアが王宮へ行きたがるのはイルヴィスに会いたいがためだと勘違いしているようだった。

 否定しようかと思ったが、それはそれで王子に不敬だと考え直し、曖昧に笑って誤魔化す。



「お嬢様の未来の夫となるお方……冷酷だなどという噂はありますが、誰とでも良い関係を築けるお嬢様なら、必ずうまくやっていけます」


「ノアったら、買いかぶりすぎよ」


「いいえ。わたくしも、お嬢様のその性格に救われた一人でございますから」



 ノアは何かを思い出すように、小さく呟いた。