「“ニーナ”が十歳のとき、院長は院の土地を狙う連中から詐欺に遭います。彼、人がいいから騙されやすくて。それを頭の良い“ニーナ”が怪しんで阻止するんですよ」



 ニーナはしゃべりながら悔しそうに顔を歪ませた。



「だけど実際のあたしは、詐欺師が来た時間、呑気に街へ遊びに行っていました。その頃は、大好きだった漫画の世界に自分がいるということに浮かれて、毎日のように遊んでいた。帰ってきたときには、院長があのふざけた契約書にサインをした後」



 結果、孤児院は無償に近い金額で詐欺師の手に渡ることになったのだという。



「あたしが前世の記憶を持ってさえいなければ──漫画と同じように院長のそばにいれば、そんなことにはならなかった」


「ニーナさん……」


「巡り巡ってあの土地はローラン家のものになったのだと知って、何とか取り戻せないかと交渉を試みました」


「それで、わたしを王妃の座から引きずり下ろせば譲っても良いと言われたの?」


「はい。それに、漫画ではアリシア様は第一王子に婚約破棄をされる運命です」


「なるほど。ローラン家の依頼は、孤児院を取り戻すことと、この世界を漫画と同じように進めたい、という貴女の二つの目的を達成させられる好機だったというわけね」