いつも通りなら、彼女は恐らくこの辺りにいるだろう。

 額にじんわり浮かぶ汗を拭いながら、アリシアは夏の花が力強く咲く庭園を見渡す。



 今日は実に二週間少しぶりに王宮を訪れた。

 目的はただ一つ。



「あ、いた……」



 アリシアの立ち位置から少し離れた所に、長い黒髪を丁寧にあみこみ、清楚なメイド服に身を包んだ年若い乙女を見つける。ニーナに間違いない。


 後ろからゆっくりと近づく。ニーナは何か物思いにふけるように花を眺めており、気がつく気配はない。

 真後ろに立ったアリシアは、すっと大きく息を吸い込み、口を開く。



「ごきげんよう、ニーナさん」



 ビクリと肩を震わせ振り返ったニーナの瞳は、アリシアの姿を捉えると、驚きと怯えが入り交じったような色を浮かべた。



「アリシア様……?」


「一部の人にでも、わたしの淹れたお茶に毒が入ってたかも、なんて疑われているのは嫌でね。疑いを晴らす方法を色々と考えていたの」



 ニーナは少し後ずさり、助けを求めるように視線をさまよわせる。



「デュラン殿下はいらっしゃらないと思うわよ。ちょうど今イルヴィス殿下に呼び出されているはずだもの」


「なっ……」