イルヴィスは少し考えてから思い出したように「ああ」とうなずいた。



「あそこの孤児院の元経営者が今どこにいるのか知りませんか?」


「資料を探せばわかると思うが」


「わかったら教えてもらえませんか?わたしも自分で少し調べてみたいんです」



 イルヴィスはアリシア不思議そうに見ながらも、すぐに微笑んだ。



「わかった。いつもの調子が戻った感じだな、アリシア。では、私はそろそろ城に戻る」



 そう言って立ち上がるイルヴィスの席に、紅茶が手を付けられないまま置いてあるのに気がついた。

 アリシアの視線に気づいたイルヴィスは、少し照れたような表情を浮かべた。



「最近、貴女の淹れたハーブティーで舌が肥えたせいか、他の者が淹れた茶を物足りなく感じるんだ」


「っ……!」


「早くまた、貴女が淹れるハーブティーが飲みたい。楽しみにしている」



 アリシアは目を大きく見開き、何度もうなずいた。



「は、はい!もちろんです」



 イルヴィスを見送ってから、アリシアは手をつけられず残ったティーカップをしばらく見つめた。

 まだ紅茶を見ると、あの時を思い出す。だが──


 アリシアは深く息を吐き、カップの中身を一気に飲み干した。