その後、風呂で希望通りローズマリーの石鹸で髪を洗われながら、アリシアは今後のことを考えた。


 主人公が現れたところで、もちろん嫌がらせをするつもりも、誰かにさせるつもりもない。まだ具体的な策はないが、黒幕に仕立てあげられないようにも気をつける。

 だが、そうやって平穏に一年を過ごすことができれば、それはつまり、第一王子イルヴィスと正式に婚姻関係を結び王子妃──そして恐らくは未来の王妃──となることを意味する。



(…先が思いやられるわ)



 考えれば考えるほど気が重くなってくる。

 これでも伯爵令嬢なので、優秀とはいえずとも、学園で学んだ王妃として必要な最低限のマナーくらいは頭に入っている。それでも、その学んだことを実践することがあるとは考えたこともなかった。


 アリシアにとって今回のことはまさに青天の霹靂だった。



(もし王妃なんかになったら、今までみたいに自由にハーブの世話をしたりできなくなるのかしら)



 この国でガーデニングは貴族の趣味として多少定着してはいるが、普通は自ら土に触れたりはしない。ほとんどは使用人に指示を出すだけで、アリシアのように自ら泥だらけになるのはかなりの少数派だ。

 ましてや王族ともなれば、その少数派すら受け入れてもらえないだろう。