彼女はイルヴィスの婚約者というアリシアの立場を妬んでいた。

 イルヴィスにはっきり突き放され、諦めたという話だったが、その後どうしているのかはわからない。



「あのメイドは、ほぼ毎日のようにローラン家の人間に会っていた。サラ令嬢本人だけでなく、公爵も娘が王妃になることを強く望んでいるようであったし、あのメイドを利用して貴女を陥れようとしているのは間違いなさそうだ」


「ニーナさんはローラン家にお金で雇われているということですか?」


「いや。メイドが金を受け取っている様子はないらしい。それに、彼女の立場で私の婚約者を陥れるような真似、どのような処分を受けても文句を言えない。金をもらったぐらいでそんな危険なことをするだろうか」


「……それなら」


「何か、危険を冒してでもやる価値のある対価を示されたのかもしれない、というのがミハイルの見解だ」


「対価」



 アリシアは、何か引っかかるものを覚えて、必死に記憶を探る。

 そしてその正体に思い至り、あっと声を上げる。



「わたし、その『対価』に心当たりがあります!」


「何?」


「殿下、前にわたしと一緒に街を歩いたことがありましたよね。あの日の帰りに立ち寄った孤児院の跡を覚えていますか?」