(馬鹿……)



 不思議と胸の辺りがキュッと痛んだ。


 最初“アリシア”という人間が、第一王子から婚約破棄を言い渡される運命だったと思い出した時、それが嫌だったのは大好きな家族に迷惑をかけたり悲しませることをしたくなかったからだった。

 だが、今はそれとは全く違う感情もある。



(どうして……? わたし、殿下の隣にいられなくなることが、嫌でたまらない)



 冷酷だというのは噂ばかりで、本当は心優しい温かな人。アリシアとのティータイムを大事にしてくれて、淹れたハーブティーはいつも美味しそうに飲んでくれる。

 そんな彼に見放され、隣にいることができなくなる。

 考えただけで胸が苦しくて、歯を食いしばっていなければ涙がこぼれてきそうな気さえした。

 なのに考えるのを止めようとしても、勝手に楽しかった時間が蘇ってくる。



(せっかく仲良くなれたのに……)



 アリシアはふらりふらりと立ち上ると、ベッドへ座り込み、仰向けになった。ぼんやりと天井だけを眺める。



「お嬢様!アリシアお嬢様!」



 しばらくの間そうしていると、不意に部屋の戸が叩かれ、ノアの声がした。その声から察するに、かなり慌てているらしい。

 アリシアは急いで目元を拭い戸を開ける。